井上岳人

村田がドーナツを食べていくと、ドーナツの輪(生)が無くなっていくとともに、ドーナツの穴(死)も無くなっていく。人間が老いるというのは、人の命がドーナツのように小さくなっていくこと、あるいは減っていくことだな、と村田は思う。しかし、ドーナツの穴(死)も無くなっていくとは、どういうことを表しているのだろう。死を人は体験できないということか。ドーナツを全部食べ終えると、その輪の部分(生)も、そして穴の部分(死)もなくなってしまい、ドーナツそのもの(人)がなくなってしまうからである。それはそうだが、と村田は頭を振った。どうも釈然としない。死(穴)が無くなっていくとは・・・・・・。